アナイス最終話 - アナイスアナイスに憧れて 最終話 次の導き手として

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アナイスアナイスに憧れて 最終話 次の導き手として

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最終話 次の導き手として

 

――あれから、数年の月日が経った。

私の転職は成功だった。

 

同じ職場で2年、3年と過ごすうち、新人だった私にも少しずつできることが増えていった。同時に、任せてもらえる範囲も。

 

そして、今。

 

念願だった企画職として、私はかつて憧れていたキャリアを進んでいる。

 

「か、か、春日さん!」

春日「うん?」

 

 廊下を歩いていたら、バタバタとせわしない足音が追いかけてきた。こんな足音を立ててオフィスを走る人が、私には少なくとも2人心当たりがある。

 

そして非常に残念なことに、そのどちらともが私の後輩だ。

 

 振り向くと、大方の予想通り、相手はそのうちの1人だった。ファイルの山を抱えてヨタヨタ走る姿は、まるで漫画みたいだ。

いや、もしかすると、彼女がコミック的表現に寄せてきているのかな?

 

春日「ちょっと。オフィスの中は走らないで、っていつも言ってるでしょ?」

「う……すみません……」

春日「気を付けてね。それで、どうしたの?」

「この資料の中から……マーケデータ? っていうのを探して送ってほしいって言われたんですけど、どれのことだかわからなくて……」

春日「……それで、わざわざファイルを抱えて持ってきたの?」

「はい」

春日「PDFでメールしてもよかったのに?」

 

 あ、と彼女の顔がこわばる。

 うん。なるほど、いい感じに周りが見えていないみたいだ。

 

まあ、わからないでもない。なんといっても、彼女はまだ入社1か月目。

右も左もわからないことだらけで、そのくせ覚えることは次から次へと出てくる時期だ。

自分が何をすればいいのか、何をしていいのかもわからなくなって、がむしゃらに走り回るしかない頃なんだろう。

私にもそういう時期があったからよくわかる。

 

 ただ、これでも私だって先輩だ。新人の教育係になるのだって、今回が初めてじゃない。

 

春日「大丈夫。データはPDFから引用しよう。まずはそれ、一緒に片付けにいこうか」

「すみません……」

春日「気にしないで。半分持つよ、貸して」

 

 山積みにされていた資料を、半分肩代わりする。これなら、少しは視界が開けるはずだ。

 

春日「さ、行こっか」

「……春日さんって、どうしてそんなに落ち着いてるんですか?」

春日「へ?」

……落ち着いてる? 私が?

 

新人の彼女は、私をじっと見つめている。その真剣な表情からして、どうやら冗談を言っているわけじゃなさそうだ。

 

 ふと、あの日のことを思い出す。

 そういえば私も、佐々木さんにそんなことを尋ねたことがあったっけ。

 

春日「……ふふ」

「なんで笑うんですか!」

春日「ううん、懐かしいなって思って。……そっか、落ち着いてるように見えるんだ?」

 なんだか気恥ずかしくなって、短く切った襟足をかき上げる。

ふわりと鼻腔をくすぐるのは、相変わらずのtommy girl

 

 次に言うべきセリフを、私は知っている。それはかつて、私の先輩が私にくれた言葉。

だから私は、思いっきり含みを持たせた顔をして、

 

春日「落ち着いてないよ、私は。でも、そんな風になりたいとは思ってたんだ、ずっと」

 

 ここに佐々木さんがいなくてよかった。

そして、AnaisAnaisの香りがしなくてよかった。

今あの人の顔を見たら、私、恥ずかしくてきっと笑い出してたから。

 

アナイスアナイスに憧れて全5話

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