アナイス第二話 - 物語と香り アナイスアナイスに憧れて 第二話

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物語と香り アナイスアナイスに憧れて 第二話

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第二話  香りと出逢い

春日「本当に申し訳ありませんでした!」

 頭を下げる。これ以上ないくらいに下げ切っても、まだ心臓はバクバクとうるさい。

 

佐々木「いいよ、気にしないで」

春日「でも、わざわざ同行していただくなんて……

佐々木「クレーム処理なんて新人1人でするもんじゃないから。むしろ私クラスで納まってラッキーなくらい。それに、今日はまだマシなほう。よくあることだから、今のうちに慣れておきなね」

 

 佐々木さんはクールに電気タバコをふかしている。細い手指と相まって、シルエットはやたらとシャープに見えた。

 

 喫煙者にも関わらず、佐々木さんからは不思議といつでもいい匂いがする。

今もそうだ。大和撫子のようにきりっとしているのに、どこか甘くてパウダリーな香り。

彼女が髪を揺らすたび、指をちょんと動かすたび、フローラルな気配がふわりと漂う。

 

相変わらず格好いい、デキ女な先輩。

一方の私は、いっそう劣等感が募るばかりだ。きっと今の私からは、セールで買った安いコンディショナーの香りしかしない気がする。

 

春日「……あの」

 

だから、無意識のうちに尋ねてしまっていた。

 

春日「佐々木さんって、どうしてそんな風にできるんですか?」

 

 私の言葉に、佐々木さんは意外にも面食らったらしい。咥えていた電子タバコを口から外して、

彼女は私の方を見た。切れ長の瞳が、いつもよりほんの少し大きくなっている。

 

佐々木「どういうこと? そんな風に、って?」

春日「なんか……こう、スマートっていうか」

 

 綺麗に描かれた眉のアーチが、片方だけぴくりと上がった。

ばかなことを言ったかな。

 

 言った後で、いまさら恥ずかしくなってきた。先輩に対して、しかも自分のミスに同行させた直後に、

あんまりにも間抜けな発言だったかな。どうしよう、言わなきゃよかった。ばつの悪さが波となって押し寄せてくる。

 

やっぱりいいです、と前言撤回しようとした瞬間。

佐々木「――あははは!」

 

突然、佐々木さんが笑い出した。しかも、こちらが飛び上がるくらいの声量で。

 

佐々木「へえ。春日さんにはそう見えるんだ。なるほどね」

 

 佐々木さんは笑っている。口角を緩ませている姿は、いつもの先輩然とした印象とは違って、どこか柔らかな雰囲気がある。

でも、すごく自然な顔だった。もしかしたらこっちが佐々木さん本来の顔なんじゃないかってくらい。

 

 電子タバコに蓋がされる。コンパクトになったそれを胸ポケットへ押し込んで、彼女は含みのある表情を浮かべた。

 

佐々木「スマートじゃないよ、私は。でも、そんな風になりたいとは思ってたかな。ずっと」

 

 それから彼女は、内緒話をするみたいに声を潜めて、

 

佐々木「……春日さんも、そうなりたいの?」

春日「は、はい」

 

 促されるがまま頷いてしまった自分に驚く。

そっか。私、なりたかったんだ。佐々木さんみたいな女性に。

 

私が頷いた途端、佐々木さんはにんまりと笑った。今までに見たことのない顔だ。

 

佐々木「この後、時間ある?」

春日「え?」

佐々木「寄り道していかない? 会社には私から、直帰の連絡を入れておくから」

 

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