アナイスアナイスに憧れて 1 - 物語と香り  アナイスアナイスに憧れて 第一話

コーディネート 物語と香り

物語と香り アナイスアナイスに憧れて 第一話

更新日:

コンテンツ

第一話 欲しいのは、新しい何か。

課長「春日(かすが)さん。頼んでおいた資料、そろそろできた?」

春日「あ……はいっ。これです、どうぞ!」

慌てて差し出した資料を見て、課長は神妙な顔つきになった。あれ、どうしたんだろう。

ちゃんとホッチキスで止めてあるし、経費削減を意識して白黒印刷にしておいたはずなのに。

佐々木「あのさ、春日さん。」

 斜め前から声を掛けられて、思わずぎくりとする。

佐々木「なんで来客時に使う資料なのに、1部だけしか刷ってないの? あらかじめカレンダー見て、何人規模のミーティングなのか確認してから印刷しなよ。それから、印刷形式も。こっちは白黒だっていいけど、お客様に出す分くらいカラーにしないと。」

春日「……すみません。」

佐々木「しっかりしなね。」

 そう言って、佐々木さんは再びディスプレイへ向き直った。つんと澄ました横顔は、パソコン越しに見ても完璧な造形をしている。

シャツの襟には端までアイロンが当てられていて、彼女の几帳面な性格を表しているようだった。

 一方、私はといえば、また今回もうまくできなかったたった1部しか刷らなかった資料を抱いて寄る辺ない気持ちでいると、

課長が曖昧に「まあまあ」と笑ってくれた。

課長「いいよ、ありがとう。じゃあ、あと4部印刷しておいてくれるかな。」

 気を遣われているのがわかるから、いっそう堪える。

 コピー機を回しながら、小さく溜め息をつく。

 思い返せば、もう2か月だ。ここへ転職してから、気が付けば既に2か月が経ってしまっていた。

内定をもらったときは、憧れの企画職に就けたことが嬉しくて、一刻も早く即戦力になってやろう、なんて意気込んでいたのに。

それが蓋を開けてみれば、コピーひとつ満足に取れないだなんて笑えない。

 周りの人は皆、こちらが恐縮してしまうほど優しい。少人数で成り立っている中小企業だからか、

ビジネスマナーも大して身についていない私のことを、まるで孫でも見るかのような目で見守ってくれる。

 だからこそ、申し訳なくなる。こんな状態から一刻も早く抜け出したいのに、私はどうも気が利かない。気が利かない上に、余裕もない。

いつでも目先のことばかりに精いっぱいで、自分のことばかり考えている。

 今はまだ許してもらえている。なぜなら、私が新人だから。

でも、もうとっくに2か月が経ってしまった。いったい私は、あと何ヶ月新人扱いでいられるだろう?

次のページへ >

タグクラウド

  • この記事を書いた人

coup

-コーディネート, 物語と香り
-, , , , ,

Copyright© 暮らしと香り , 2019 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.